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縦軸のストーリーを紡がない日本プロレスに明るい未来が見えません

(画像出典:日刊スポーツ

元スターダムの岩谷麻優選手がマリーゴールドへの入団を決めたようで。岩谷選手が好き嫌いとか、マリーゴールドが好き気嫌いとかそんな端的な話ではなく、俯瞰的に見て残念だなぁというのが率直な感想。選手は自分がより輝ける場所に行きたいものでしょうし、団体は経営を考えたら少しでも話題性のある選手を手元に置きたいと思うが普通であるから、自由競争の中では別に誰がとやかくいう事ではないとは思う。だがしかし、それでも残念であるという感情はぬぐい切れない。

女子プロレスのアイコンを名乗り、名実ともにスターダムのトップ選手であった岩谷麻優選手。新日本プロレスの血流を受け継いだIWGP女子の第三代チャンピオンであった訳だが。先日、朱里選手との壮絶な試合でそのベルトを明け渡してしまった。その後…リング上でファンにメッセージを残すこともなくあっさりとスターダムを退団。そしてその数日後…満面の笑みでマリーゴールドへの入団記者会見。この部分がどうにも違和感なのだ。

その昔、プロレスというのはファンの感情をぶつけて人生を投影する物語があったように思う。当時の新日本プロレスでは、絶対的君主のアントニオ猪木選手が存在し、その牙城を崩せない藤波辰巳(現 辰爾)選手がもがき、その鬱憤が爆発し、控室で前髪を自分で切り直訴。そして「飛竜革命」がはじまる。そして、その藤波に「俺はお前のかませ犬じゃない!」と反旗を翻したのが長州力選手。のちに新日本退団→ジャパンプロレス結成→全日本プロレス移籍へと繋がる。

ストーリーはここでも終わらない。長州が去った後、新日本プロレスには前田日明選手を筆頭としたUWF勢が参戦し、イデオロギー闘争が勃発。その絶頂期になぜか長州軍団が新日本復帰。「世代交代だ! いましかないぞ、俺たちがやるのは!」と前田を巻き込んで「新旧世代闘争」が勃発する。しかしこれも長くは続かず、同世代軍だったはずの猪木とマサ斉藤選手の因縁勃発で「巌流島の戦い」へとつながっていく。

UWFで必死に頑張り、新日に出戻ってからは「イデオロギー闘争」で盛り上げ、さぁ!これからというときに長州に美味しいところを持っていかれ、結果的にそれにも火が付かず尻すぼみに。この時の前田の鬱憤もそうとうなもんだったでしょう。結果的に、試合中に長州の顔面を背後から蹴り上げる「顔面襲撃事件」に繋がって新日本を退団させられるわけだ。

ざっと話しただけでも、これだけ時代とともに全てのストーリーがつながっていく。ファンはこの連続長編ドラマを見続けるからこそ深層ファンとなり、感情移入をし、長きにわたって応援していくことになる。この時間経過と共に新たなドラマが紡がれていく「縦軸のストーリー」が何よりも心地よく、何よりも大事だったと思う。

話を岩谷麻優選手のマリーゴールド入団に戻すが、先の「朱里選手との激闘」「IWGP女子王者からの陥落」「チームメイトとの歴史の終焉」「ファンの感情への落とし前」これらの伏線が何も回収されることなく「マリーゴールド入団」に繋がってしまったから違和感なのだ。ファンにとっては、知らないところで話が進んで、知らないところで決まって、知らないうちに新しいストーリーが始まってしまった。自分が感情移入していたスターダムの岩谷麻優物語は、最終回を放送することなく番組が打ち切られた感じだ。

いつからか、プロレスは優秀な選手の品評会のようになってしまった。鍛え抜かれたアスリートという部分はもしかしたら昔よりも優れた人間像に成長しているのかもしれない。でも、我々は技の品評会を見たいわけでもなく、ヒーローヒロインのお披露目会を見たいわけでもないのだ。実はそこに流れる縦軸のストーリーがどのように紡がれていくのか、それを楽しみにしているのである。ストーリーが途切れないからこそ、次のストーリー展開に思いをはせて、ファンどうしで議論が楽しめる訳だ。その結果を見たいから、また次の試合にも期待を寄せるもの。

最近の日本プロレスは、このストーリー部分が完全に置き去りになっている。つまるとこ、ファン心理を置き去りにしているともいえる。アメリカの大手WWEはとにかくこのストーリーを重視する。というよりストーリー有りきだ。WWEのストーリーテラーの要素を導入し、新日本プロレス的な戦いをミックスさせたAEWが勢いをつけるのも不思議ではない。では、タレント品評会になり下がった日本のプロレス界はどうだろうか?結果はいまの現状を見ればわかる気がする。。。

それでも私はプロレスが好きだ。プロレスに感情移入したい。プロレスを追い続けたい。だがしかし、そんなファンの心を置き去りにした経営は、絶対に上手くいかないのだ。ロッシーさん、アルシオンの失敗をちゃんと生かしてくださいね。タレント品評会を目指し、ストーリーがつながらず、浜田文子選手が退団し、アジャコング選手とは金銭トラブル。そんなストーリーは別に求めてないのですよ。

プロレスを愛しているからこそ、今回の岩谷麻優選手のマリーゴールド入団のニュースは、モヤモヤを残しまくった感じでありました。

ではでは。

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